メモログ

プチ小説「夏の思い出」

bonkoturyu
2021/07/21 14:27

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当時の俺はまだ学生だった。

学校から出た夏休みの課題は、町役場の手伝いをしてくること。

宿題や自由研究とかをしなくて済むというのもあって俺は喜んでいた。

だが、いざ行ってみると力仕事ばかりで毎日が体力勝負みたいなもんだった。

 

「お、よく来たね。じゃあまずはこの荷物をお願い。

 場所は、郷土資料室。分かるかい? この廊下の先にある部屋だよ。

 部屋の前に書いてあるから分かると思う。」

「はーい、分かりました。行ってきますね。」

 

大きめの箱と細長い箱。同級生と手分けして持って郷土資料室に。

結構どれも重たくて、なかなかに重労働だ。

 

「全くよぉ、何がラクな課題なんだよ……。」

「ほんとそうだな。これだったらまだ宿題の方がラク出来たんじゃ?」

「力仕事ばっかりで疲れるし、せめて何か面白いもんでもあればなぁ。」

 

お互いに愚痴りながら荷物を部屋に置く。

広い部屋に、乱雑に置かれた資料。

それぞれの資料には番号も振られているのだが、置いてある場所がバラバラだ。

なので資料の番号や種類を整理する話も頼まれている。

 

「……かなりの量があるな、これ。」

「今日中には終わりそうにないね。」

「相当長い時間ほっとかれてたのもあるっぽいな。ホコリ被ってるのもある。」

 

溜息をつきながら、分担を相談する。

 

「はぁ……。じゃ、俺は入り口から右の方から。」

「なら、入り口の奥からにする。」

「じゃあ俺は入り口の左でいいな。」

 

それぞれ手分けして手前から整頓し始める。

 

「何かあったら声出すってことで。」

「おう。」

「了解ー。」

 

1時間ほど黙々と作業をしてから、お互いに疲れて部屋の中央に戻ってくる。

俺はその途中で気になる書類を見つけた。

 

「もう、むーりー。なんなんだこの量は!」

「ホコリ被ってる意味、分かった気がする。」

「これどれだけ整理すれば終わるんだ……。」

 

役所の人にも、できる範囲でいいよとは言われているが、

こんなに大変だとは思ってなかった。

 

「とりあえず、いったん戻るかー。」

「おう。」

「……ん?あ、ちょっと待って。こんなのあったよ。」

 

見つけてきたそれは、古そうな書類だった。

背表紙に書かれていたのは、【大狼神伝記、狼牢寺】というもの。

 

「何だそれ?狼牢寺?何て読むんだ?」

「この街のやつかなぁ?相当古い感じじゃね?」

「分かんねえな、大人に聞いてみるしかない。」

 

俺達はその資料を持って、役所の人に聞いてみた。

 

「あの、この資料って何ですか?」

「え?……何これ。どこにあったの?」

「郷土資料室の部屋に落ちてましたよ。左の方の奥に。」

「おっかしいなぁ、こんなの見たこと無いんだけど。

 調べてみるから、預かるね。何か分かったら教えるよ。」

「分かりましたー。」

 

その日は夕方まで倉庫の整理や資材の確認とかをしていた。

来月末くらいには夏祭りもやるので、そのための準備も。

出来るところまでやって、家に帰った。

 

「おはようございまーす。」

「あ、君たち。おはよう。」

 

役場の人に挨拶を済ませると、一緒に郷土資料室に行くことになった。

 

「あれ、今日は朝からここの整理です?」

「いや、ちょっと探してほしいものが出来たんだ。」

 

そういって部屋の鍵を開けて、広いテーブルの上に資料を置く。

 

「それ、昨日の奴ですよね?」

「なんだっけ、なんとかオオカミ伝記?」

「違うよ、【大狼神伝記】とか言うやつ。」

 

喋ってる間に、資料のあるページを開いて指し示す。

 

「ここ。君たちも知ってる、山の上の寂れた神社。

 どうやら資料に書かれているのは、この神社の話のようなんだよね。

 今はもう誰も行かない場所だから、明るいうちにちょっと見てきてほしいんだ。

 もし何か見つけたものがあったら教えて欲しい。

 近くの道路に街灯もないから、暗くなる前に戻ってきてね。」

「分かりました。」

「これって探検っぽいな。」

「遊びなのか調査なのか……。」

「軽く見てきた感じだと、少し老朽化も進んでる。

 今日は、一緒に行ける大人も居ないから、あまり無茶しないように。

 早めに帰ってきていいから。水分補給もしっかりとね。」

 

役場を出て、俺達は言われた場所へ向かう。

 

「昔からこの辺にはあんまり来なかったよな。」

「何も遊べる場所がねーからな。」

「周りが田んぼなくらいじゃね?」

 

木陰に入りながら山道を登っていくと、鳥居と階段が見えてくる。

 

「この上かな。」

「長ぇ階段だなぁ……。」

「上にも鳥居が見えるからココっぽいな。

 にしても、登るのも面倒な階段だな……。」

 

各々に愚痴りながら、階段を上る。暫く無言で上っていると、ようやく一番上に辿り着いた。

鳥居の傍の木陰に座り込んで、一旦休憩しながら周りを見回してみた。

今いる場所が大鳥居、左の方には手水舎、右には石碑がある。

大鳥居から奥に続いていく参道の先には門が見え、その先には拝殿も見えた。

 

「じゃ、どこから調べる?」

「疲れたー。」

「流石に水はもう通ってないよな?」

 

言いながら俺は手水舎まで行ってみるが、やはり枯れていた。手桶も見当たらない。

水が出てきたと思われる場所には、口を大きく開けた狼の石像がある。

両脇にも狼の石像があり、神社だったというのがイヤでもわかる。

 

手水舎から背を向けて、目の前の石碑を見てみたが難しい字が多く、

一部は読めない字で書かれていて何の石碑なのかはわからなかった。

 

「何見てんだ?」

「ほら、この石碑。せっかく一応調査に来てるんだから、読めないかなって。」

「……ダメだな。欠けてるのもあるし読めない漢字多すぎだな。

 それと何だこれ? オオカミのマーク? こっちだけ違う字で書いてないか?」

「え?どれどれ?」

「ん?書いてないじゃん。何か見間違えたか?」

 

俺はその文章のとこを指さす。

 

「石碑の隅のとこ。ココに何か書いてる。」

「何もねーぞ。」

「何て書いてあるんだ?」

「えーと……。

 『陽落ち 闇満ちるなら 我は主と共にある

 闇紛れ 主襲うなら 我が主の盾になろう

 朽ち果て 主が我を忘るるなら 我は主の前から去ろう

 我は主と共にあり 主の幸を守るもの

 主の命にて 我は此処を守ろう

 地を 空を 先を守ろう

 主の先 未来永劫 我は共にあろう』

 って書いてある。」

 

読み上げ終わると二人からは不思議な顔をされる。

やはり二人には見えてないらしい。

 

「嘘ついてねえ?」

「一人だけ見えるってのも嘘くさい。」

「いや、ほんとに書いてあるんだって!」

「まぁいいや、とりあえず奥も見てみようぜ。」

 

拝殿の前まで行くと、奥に本殿らしき建物があるのも見えた。

賽銭箱は老朽化していて、朽ちかけている状態だ。

鈴も綱も、もうボロボロになっている。触ると崩れて落ちてきそうだ。

そこから見える範囲で様子を見るが、中は暗くなっていてよく見えない。

 

「これじゃ何もわからねーな。」

「中に入ってみる?」

「いや危ないだろ。大人が来てからの方が良くないか?」

 

俺達が喋ってるとき、奥から大きな物音がした。

 

「今の音……なんだ?」

「聞こえたよな?」

「聞こえた。何かよくわかんないけど。」

 

その物音は、板の軋む音がして足音のようにも聞こえる。

 

「確か大人の話だと、誰も居ないって話じゃ……。」

「居たとしてもおかしいよな。何で居るんだ?」

「帰ろう。危ない気がする。」

 

音が近づいてくるのが分かると、徐々に怖くなってきて、

さっさと役場に帰ることにした。

 

「やばいってあれ!」

「一瞬デカくて白い足が見えた気がするぞ!」

「いいから走れ!帰るぞ!」

 

急いで階段を下りて上を見たが、何かが追いかけてくるような様子は無かった。

役場に帰り、大人にその事を伝える。

 

「え?白い大きなバケモノ? そんなのあそこには居ないよ。

 伝記にも、そんな事書いてなかったし。」

「でも見たんですよ!」

「うーん。そこまで言うなら、業者も呼んでおいたほうがいいかなぁ……。

 明日以降、大人たちで見てくるから、今日は帰っていいよ。」

「はーい……。」

 

ちょっと気に食わなかったが、俺達は素直に帰ることにした。

 

「絶対何か居たよな、あそこ。」

「居たいた。何なんだろうな。」

「分けわかんねぇ場所だな、あそこ。」

 

今日見たもの、感じたものをお互いに話しながら家路についた。

何なのかは分からないが、面白い遊びでも手に入れた気分だった。

 

次の日。

 

「おはようございます。」

「はい、おはよう。今日は1人?」

「そうですね。2人は今日は部活で。」

「だったら、今日は帰っていいよ。1人だと大変だしね。」

「流石にそれは……。」

 

ソコまで言うと、役所の人はニッコリ笑って俺の頭を撫でた。

 

「いいからいいから。折角だから休んじゃおう。

 どこか遊びに行っても良いんじゃないかな。お友達には見つからないようにね?」

 

役場から半ば追い出された俺は、とりあえず昨日の神社に行ってみることにした。

まだまだ調べてないとこもあるし、何より気になって仕方がなかった。

家に帰って自転車に乗り神社に向かう。

天気を見る限り今日は雨が降らなさそうだから、

親にはいつもの友達の家に行って遊んでくると伝えておいた。

 

神社の下の階段まで着くと、小さな白い塊があるのに気付いた。

それはちょうど子供くらいのサイズで、毛玉のように見える。

 

「なんだこれ?」

 

遠目に見る限りは犬のようだった。白い服を着ている犬が丸くなっていた。

近くに寄ろうとすると俺の足音が聞こえたのか片耳がこちらを向いた。

その犬はすぐにこちらを向いて、走ってくる。

 

「みつけた! ボクが見えるお兄さん!」

「うわっ、喋った!」

 

勢いがついたまま犬に抱き付かれたので、そのまま道路に倒れこんだ。

背中がまだ痛むが、そいつをよく見てみると、犬じゃなかった。

服は神社の神主が着るような『正服』と呼ばれる白い服を着ていて、

犬だと思っていたが顔立ちは犬らしくなく、

ハスキー犬とかに近いような狼と呼んだ方が近い顔立ちをしていた。

 

「これでようやくボクもお役目がキチンと果せる! お兄さん手伝って!」

「何の事だか分からないんだが……。とりあえず退いてくれないか?」

「あ、ごめん。嬉しくて、ついやっちゃった。」

 

少しバツが悪そうにした、そいつを見ながら立ち上がる。

 

「色々聞きたいことはあるんだが、まずどこから聞こうか……。」

「んー、とりあえずボクの家に来てくれない? 今のボクだとあまり遠出できないからさ。」

「言ってることが分からないんだが。」

「良いから、ボクの家に来て。話はそれから。」

 

自転車を階段の脇に停め、腕を引かれるまま階段を上っていく。

 

「さぁ、ボクの家はこの奥だよ。」

「ちょっと待て。ここは神社だし、大人に聞いてもこの奥には住む場所も、

 住んでる人なんて居るって言ってなかったぞ。」

「え? ボクが住んでるよ?」

「話が噛み合ってないんだが。」

 

拝殿の手前まで来たときに、一旦そいつを引き留める。

 

「どこに住んでるんだ?」

「この奥だよ。」

「奥はもう本殿しか……。」

「あ、そっか。キミたちはそう呼んでる場所になるんだっけ。」

「え? じゃあ……。」

 

そこまで口にしたときに、昨日の出来事を思い出して身震いする。

 

「この奥にある『大狼像』がボクだよ。

 そして祀られているカミサマがボク、って事になるかな。

 昨日は脅かしちゃってゴメンね。

 久々にヒトが来たから嬉しくて『そのままの姿』で出ちゃった。」

「カミサマ……?」

「そう。昨日キミたちが見た姿は、コレ。」

 

急に風が強くなり竜巻が出来、そいつに重なったと同時に子供の姿が変わっていく。

背も高くなり2mを超えるくらいの姿になると竜巻が消えた。

 

「ちょっとくらい格好つけようかな。」

 

軽く正服を整えてから、俺の前に大きな狼獣人が跪いて頭を下げる。

 

「我が主、ようやくお戻りになられて、我はとても嬉しい。

 願わくば二度と離れる事がないように。

 約束通り、この地の加護は続けているのだが、

 信仰による神通力の不足により、あと数十年後には封印が……。」

「待ってくれって、何の話だよ。我が主って何だよ。

 それにその姿も不思議だしまだカミサマって話も訳わかんないのに、

 どんどん新しい話や疑問とか出てきて、更に意味不明だ。」

「何も覚えてないのか?」

「覚えるも何も、俺は知らない。」

「石碑が読めたのに?」

「何で読めたんだろうなアレ。」

「……我が主よ、少々手荒な真似を失礼する。」

「うわっ!」

 

そいつに軽々と持ち上げられると、俺は拝殿の奥に連れ去られた。

 

今、俺が居るのは本殿だ。本殿の奥の大きな狼の像の傍。

 

「これが、ボク。もう今は誰も来ないから、ちょっと汚れちゃってるけどね。」

 

見上げるほどの大きな銅像がそこにあった。

隣にいるのと同じように正服を着て、しっかり前を見据えている像。

顔つきも凛々しく、何かを守るかのような佇まいをしている。

 

「本当に覚えてないの?」

「覚えるも何も知らないし、何の話なんだよ。」

「……そっか、匂いを嗅いでようやく分かった。ヒトの時間の流れは早過ぎだね。

 どんな気持ちであっても、ボクは一緒に居ちゃいけないのかな。

 キミはもうボクの……。」

「一人で納得して凹まないで欲しいんだが。」

 

さっきは本殿に連れ去ってくるくらい強引だったのに、

見た目で分かるくらい凹んで耳も下がっているし尻尾も下がっていた。

 

ようやく話を聞いてみると、500年前からある神社らしい。

この場所は森に多くの狼が住んでいて、ヒトは森に住むオオカミを敬い、

大事にすることで共存していた。次第に土地神として祀るようになり、

あの神社が出来たらしい。それもあって、昔から犬もカミサマの遣いとして、

どの家でも必ず1頭以上飼われていたらしい。

 

こいつが言ってる『相手』は、どうやらその500年前の時の神主。

以後も何百年かは神主の一族がきちんと管理していたのだが、

いつ頃からは不明だが、急に神主が来なくなったらしい。

 

「それでね、ボクはここの土地を守る約束を、その人としたんだ。」

「そんな話を親から聞いたこと無いぞ……。」

「そうなの? でも、キミの匂いは、とてもあのヒトに似てるよ。

 だから神通力の少ないボクの姿も言葉も見えてるんだし。」

「石碑が俺だけ読めたのもそのせいか?」

「うん、そう。でもこれで、ボクの事が見えるヒトが出来たから、

 ちょっとだけ神通力も戻ってきたかも。

 ボクたちカミサマはね、『祀られて』『信じて貰う』事で、

 神通力や神力って呼ばれるチカラが使えるんだよ。」

「神通力や神力とかで何が出来るんだ?」

「えーっと、ボクの場合は『守る力』だから、

 厄を払ったり、危険なことから守ったりとか、

 危ないものを封じる力になるかな。

 何かを『与える力』ではないから、

 金運上げたり縁を結んだりとかは無理だよ。」

「急に神社っぽい話になったな。」

「神社で出来る事の種類は、カミサマの神通力や神力の種類で変わるからね。

 それぞれの系統とかもあるけど、ボクの場合はそうなるの。」

 

そう言って、威張るように胸を張りながら笑ってみせる。

 

「話を戻すと、土地を守る約束したんだけどさ、

 さっき言った通りボクの神通力が弱くなっちゃってるんだよね。」

「うん、そう言ってたな。」

 

大狼像のトコまでそいつは歩いて行って、それに触れながらつぶやいた。

 

「このままだと今年の夏が終わる頃に、ボク、消えちゃうんだよね。」

「俺が見えててもか?」

「うん、それでも足りないんだ。土地を『厄』から守ってるから。」

「厄?」

「土地を守ってるって言ったよね。守るって、外からの影響を防いで、

 本来なら『なってた事』を『なかった事にする』って事なの。

 だから、本来ならこの場所はとっくの昔に、荒れたり、水の底に沈んだり、

 砂漠になったりしててもおかしくない場所なの、分かりやすく言うとね。」

「おまえが消えたら、すぐになるのか?」

「ううん、違う。何十年か掛けて、少しづつ変わってくよ。

 一旦は発展したり、良くなるかもしれない。

 けれど、今までの受けなかった『厄』が必ず舞い込んでくる。

 その時にはもう祓えるヒトもカミサマも居ないって事。

 どうにも出来なくなるから、『自然に任せる』しかなくなるの。」

 

寂しそうな、諦めたような顔をしながら俯いているのを見て、思わず駆け寄って抱きついた。

 

「えっ!?」

 

勢いで動いてしまった気がするが、気にしないでそのまま抱きつく。

 

「……思ったよりフサフサなんだな。」

「急に抱きついた感想がそれなの?」

「いや、何かとても守ってあげたくなったから。

 俺みたいな子供に何が出来るのか分かんないけど、

 大人にも聞いてみる。ココが残るのが一番良い気がするし。」

「うん、ありがと……。優しいね、血筋かな?」

「これは血筋とかじゃなく俺の意志のつもりだけど。」

「ごめんね、あのヒトみたいな事言うからさ。キミも十分に良い子なのにね。」

 

暫くそのまま抱きついてると、外から雨の音が聞こえてくる。

 

「雨降っちゃったか。あっ、今何時だ!?」

 

手元の携帯を見ると既に18時を過ぎていた。

急いで、親に嘘ついて行くと言った友人の家に電話を掛ける。

 

「おう、遅かったな。」

「その様子だと既に電話来たんだな?」

「ああ、来たぜ。何も聞いてなかったから適当に合わせといた。

 もう夜だから泊まる話でいいよな?」

「サンキュー。あとでジュース奢る。」

「2本な。それと、あとで話聞かせろよな。

 どうせ神社行ってんだろ?

 役所のヒトから早めに上がった話聞いてるぜ。」

「バレてんのかよ。わかった、明日な。」

「昨日のアレ、何だか分かんなかったが気をつけろよ。」

「あー、それな。もう大丈夫だわ。それも明日話す。」

「はぁ!? まぁいいや。明日な。」

 

電話を切ると、不思議そうにその様子を見られていた。

 

「面白いね、それ。」

「そうか、見たこと無いもんな。携帯電話っていう遠くのヒトと話せる機械。」

「へぇ……便利だねぇ。」

「どうすっかな、もう暗くて自転車も濡れちゃったし帰れねえ。」

「ココに泊まっていけばいいよ。誰も来ないし。」

「寒くないか?」

「それは……ほら。ボクが布団代わりをしてあげるから。」

 

改めて正面からそいつに抱きつくと、白い毛に包まれる。

 

「これなら、暖かいでしょ?」

「うん……。あったかい。」

 

家の布団よりフカフカで、暖かくて優しい温もり。

正服もいつの間に無くなっていて、白い毛に埋まっていた。

 

「あれ、服どこいった?」

「えぇ? あぁ、服ね、服。あれもボクの力で作ってるだけだから……。」

「便利なもんだな。」

「それにこの方が暖かいでしょ?」

「そうだけど……ま、いいか。おやすみ。」

「うん、おやすみ。朝になったら起こすね。

 親御さんや友達に心配されちゃってるだろうし?」

「あー、うん。そうだなぁ……。怒られんのやだなぁ。」

「仕方ないでしょ。」

 

そんな他愛もない話をしていたら、すぐに眠くなって寝てしまった。

 

帰ると親に怒られ、友達にも心配された。

 

「何がどうだったのか教えろよ。」

「1人で神社行ったのか? ズルいな。」

「悪かったって。どこから説明したもんかな。」

 

俺は役場の手伝いの続きをしながら、昨日の出来事を話す。

勿論信じてもらえる気は無かったので大まかな話だけをする。

本殿のところに狼の銅像があったとか、500年前からあるとか。

雨降ったので仕方なく本殿で雨宿りしてたとか。

 

「あー、確かに土地神の話は資料にも書いてあるね。

 500年前から居て、神社に祀られてるって。

 銅像を作られたのは、少し後みたいだけど。」

「そうなんですか?」

「そうみたい。お祭りも、昔はあったみたいだね。

 屋台も出て、花火も上げる夏祭り。

 土地神様に豊穣と厄祓いを感謝するんだね。

 でも、もう何も残ってないなぁ……。」

「残念です……、あ。またお祭りしたり出来ないんですか?」

「その話なんだけどさ。ちょっと厄介な話があってね……。」

 

役所の人に話を聞いてみたら、あの場所自体に問題があった。

実はあの山は持ち主が長いこと分からなくて、

つい先日『所有者放棄扱い』として国の所有になったばかり。

新しい区画整理事業として大々的に更地にした後、

あの辺りと駅を含めてビジネスビル街になる構想があるらしい。

 

「もう決定しちゃったんですか!?」

「いや、まだ確定というか何というか、かな。

 土地の所有者が名乗り出たりしてくれれば、

 正しい所有者と交渉したりするんだけど。」

「どうにかならないんですか?」

「今のところは……難しいね。」

 

このままだと、あいつもあの場所も無くなってしまう。

それでいいのか? あいつが約束してたのはもういいのか?

 

「せめて、夏祭りだけでもやろうぜ。

 いっつも他のとこの祭りしか行ってないし。」

「そうそう、とりあえず夏祭りだけでも。」

「おねがいします!」

「……そうだね、この資料を見つけなかったら何もなかったんだし。

 資料が出てきたこと自体が、奇跡みたいなもんだしね。

 よし、夏祭りの提案と交渉は大人たちに任せて。」

「はい、よろしくおねがいします!」

 

これで何とか夏祭りはやってくれることになりそうだ。

後は……今後の話か。俺みたいな子供に出来ることはあるんだろうか。

帰って自分の部屋のベッドで考えてると、いつの間にか少し眠ってしまっていた。

親に言われて急いで風呂に入る。体を洗い終わって、湯船に浸かりながらまた考える。

 

「あいつ今何してんのかな……。」

「え?キミと一緒にお風呂入ってるよ。」

「うわぁっ!?」

「えっ、どうしたの。大丈夫!?」

 

急に大声を出したから、親に心配された。

何でもないと答えてから、目の前のそれを見る。

 

「神社の近くしか駄目じゃなかったのか?」

「えっと、神通力も少し回復したから、キミを探してた。」

「何で?」

「神社の話を聞きに来たの。早い方が良いと思って。何か聞けた?」

 

今日の出来事を伝えると、やはり悲しそうな顔をしてこっちを見た。

 

「無くなっちゃうのか、あそこ。」

「今のままだとそうらしい。」

「約束、守れなくなっちゃうのか……。」

「まだ分かんないだろ。」

 

俺は悲しそうな顔をしたままのそいつの頭を撫でた。

最初はビクッとしてたが、次第にそのまま目を細めた。

 

「久々、撫でられるの……。」

「撫でられるの好きなの?」

「うん、好き。」

「そっか。」

 

暫くそのまま撫でていたが、急にそいつが顔を上げてこっちを見た。

 

「どうした?」

「いや、成長途中にしては、ちょっと小さいかもなって。」

 

そう言いながら、視線は俺の身体の下の方へ。

 

「さっさと出てけ! 変態!」

 

思いっきりお湯を掛けてやったが、うまいこと避けられてしまった。

 

ちょっと時間が過ぎて、夏祭り前日。

 

「あ、君たち。よく来たね。

 今日は夏祭りの設営の手伝いをして貰うよ。

 大きい荷物とかもあるから、一人で持たないようにね。

 無理そうなら大人にも手伝って貰って。」

「はい、わかりましたー!」

 

各々がテントの設営部品や折り畳み机を持って準備をし始める。

 

「夏祭りかぁ、どんなのになるんだろうなー。」

「聞いた話だと屋台も出るらしいぜ。」

「いつもは隣町まで行ってたしな。そういえば、今年はいつだっけ?」

「近くなると、のぼり旗出てるんだけどな。まだなんじゃねぇ?」

 

屋根部分だけ組み立てて準備を進めていく。当日になったら設営するが、

それまでは危なくないようにこうするのが普通らしい。

雨対策として、折り畳み机と椅子はテントの中に揃えておく。

電灯や提燈は脚立を使いながら揃えていき、電気が通るかだけ確認する。

 

「会場自体って、役場の前の広場でいいのか?

 祭りっていうくらいだから、神社の近くなんだと思ってた。」

「神社の近くまで屋台は出るらしいけど、祭り自体はこのへんなんだってさ。

 なんでも神社から見えるこの位置でやるのが記録にあったんだと。」

「そうなんだ。」

「あとは……予算の都合ってのもボヤいてたなぁ。

 急遽開催決定したようなもんだから、予算案作るの厳しかったとか。」

「そりゃそうか。まずは感謝だな。夏祭り開催までこぎつけたわけだし。」

 

俺らも一緒に大人たちにお願いはしたけど、決めるのは役場の人だし。

それからしばらくして作業も進み、一通りの準備は終わった。

 

「もう君たちは先に帰ってて良いよ。後は大人たちでやっておくから。

 明日はゆっくり夏祭り楽しんでね、こっちの手伝いは大丈夫だから。

 片付けの時に来てくれると嬉しいな。」

「はい、お疲れ様です!」

 

まだ昼を少し過ぎたころだったので、俺達は家に帰る事にした。

 

「じゃ、また明日な……っていってもバラバラに行くんだよなぁ。

 親とかも居たりするし。」

「ある意味、初めての地元の祭りだし、仕方ないんじゃね?

 お前は良いよなぁ、神社のオオカミも見えて、

 明日はたまたま親が帰ってくるのが遅いとかさ。」

「本当にたまたまだしな。それを羨ましがられても……。」

「ま、いいや。また終わってからなー。」

 

俺は家に帰って昼飯を食べ、特にやることも無いので神社に向かった。

階段の下の鳥居の傍にちょこんと座ってあいつが居た。

今日はもう小さい姿ではなく普段の大きなオオカミの方の姿だった。

すぐにこちらに気付いたようで駆け寄ってくる。

 

「あっ!お兄さんこんにちわ。」

「う、うん、こんにちわ。」

 

少し気まずい。風呂場の出来事から今日まで、神社を避けていたから。

 

「あー、よかった。嫌われちゃったかと思ってたんだよね。」

 

言いながら階段に座ってこっちを見ている。

近くまで行ってから、少し頬を掻いて俯く。

 

「その……ごめん。」

「いいよ。ボクが急に行ったんだし、キミの事考えてあげれてなかったんだから。」

 

俺もそのそばに座って、階段から役所の方を見る。

 

「……夏祭り、やってくれるってさ。」

「うん、知ってる。よかった。後は、キミたちがどうしたいのか、だね。

 ボクが居なくてもいいのか、それとも、ここを残してボクが守るのか。

 ボクもね、良く分かんなくなってきちゃったんだ。

 確かに昔の主との約束はあるから守りたいんだけど……。

 ボクは『カミサマ』だからさ、必要とされないとダメなんだよね。

 多くの人の願いや想いが無いのなら、此処に居られない……。」

「……俺は、居て欲しいけど。」

「それは、キミの『想い』だね。ありがと。

 初めて素直な気持ちが聞けた気がする。」

「うっせ、もう言わない。」

「あー、そんなぁ。もっと言っていこう?

 ボクに『心残り』とか作らせていこう?」

「なんでそうなるんだ。」

「そうしたら、もしかしたら、ボクがココに残れるかもしれないじゃん?」

「じゃあ……これでどうだ?」

 

そう言って俺は、階段から立ち上がり、そいつの頬にキスをした。

そいつの尻尾が真上に上がったのを見ると、相当ビックリしたようだ。

何か言い始める前に俺は階段を駆け上がる。

 

「え、ちょっと待って! 嬉しいけど何か違う! もう一回!」

「聞こえなーい!」

 

階段を駆け上がる俺の隣をそいつは飛んで追いかけてきたけど無視する。

一番上まで駆け上がったら流石に息が切れたので、

そのまま大の字に仰向けになって息を整える。

 

「いきなりキスとか……。最近の子はそういうもんなの?」

「何か言い方が古臭いな。」

「古臭くてもいいよ。」

 

そいつは俺の上に被さると軽く口付けして、俺を見つめた。

 

「『カミサマ』がこんな事言っちゃいけないんだけど。

 ……好きだよ。最初に会った時から。

 ボク、消えたくないよ。キミと一緒に居たい。」

 

俺は白い毛に埋まりながら、両手を広げて抱きしめた。

 

夏祭り当日。祭りの屋台の所は通り過ぎ、俺は神社に急いだ。

拝殿を抜け本殿まで来たが、あいつの姿が見当たらない。

大狼像の近くにも居ない。周りを見渡してみたが、近くに居る気配もない。

 

「あれ?居ない……。」

「いるいる。ちょっと待って、祭りなら祭りで用意があるからー!」

 

大狼像の部屋の外の廊下に居たのを見つけると、

目の前で風が巻き起こり、そいつの姿が変わった。

 

「これでよし。」

「なぁその服なんて名前なんだ?」

「これはね。『常装』っていうんだ。

 普段着みたいなものなの。神主さんも普段はこんな格好になるんだよ。

 今までボクが着てた正服は、本当は大きな祭事の時に着る服なんだよね。

 後は、年始の1月1日に着る『礼装』っていうものもあるよ。」

「正服より動きやすそうだな。」

「そうだね、こっちの方が普段から着る奴だから。」

 

説明しながら、くるっと一回りして見せてくれる。

 

「じゃ、お祭り行こうか?」

「んー……見えないままでもいいのか?」

「うん、キミと行ければそれでいいよ。

 ボクの事が見えなくても、皆もキミも楽しんでくれればいいの。」

 

大きなままで座りながら俺の方を見上げ、ニコッと歯を見せながら笑ってくる。

尻尾もゆっくり左右に揺れている。

 

「そういうのがズルいよな。」

「何か言ったー?」

「何でもない。」

 

何度も、ねぇねぇと聞いてくる声を無視して祭りをしている場所へ向かう。

屋台があるところまで戻ると、既にかなりの人が集まっていた。

こんなに人が多いのはこの町では初めて見たかもしれない。

歩けないほどの混み具合ではないが、通るのに難儀するくらいではある。

人にぶつからないように歩くのは無理だな。

 

「スゴイ、人の量だねぇ。」

「そうだな。こんなのは初めて見た。屋台の中身は……っと。

 たこ焼き、お好み焼き、リンゴ飴……いつもの隣町の祭りと同じ感じなんだな。」

「そうなの? ボクは隣町に行った事無いから知らないけども。」

「うん、大体こんな感じ。クレープとか、ベビーカステラとかは、無いかな。」

「あそこに見える奴? そうなんだ。」

 

あとは屋台を見ながら、説明したり買い食いしたりして、一通り眺める。

少し多めに買っておきつつ、祭りは盆踊りが始まる頃に、俺は神社へ戻り始めた。

 

「あれ、もういいの?」

「ああ。お祭りも大事だけど、さ。」

 

本殿に戻り、大狼像の前へ祭りで買ったものを供える。

 

「久々にお供え物もらえた……。」

「そうか。」

「ありがとね。」

「うん、一緒に食べたかったから。」

 

供え終わったら、俺はそれを食べ始める。食べ終わる頃には、

遠くの祭りの音が小さくなってきており、祭りの終りが迫ってきていた。

 

「お祭り、終わっちゃうね。」

「出来ただけでも……とは言いたいけれど。」

 

やっぱり、このまま全てを終わらせたくはなかった。

役所の人たちの言葉を思い出す。何か言ってたような……。

 

「キミは、ニンゲンなんだから、ボクの事は気にしなくても良いんだよ。

 ボクはキミの先祖のヒトに助けて貰って約束をしただけの事。

 キミが責任を感じる必要も、頑張る事も無いんだよ。

 ほかの人に任せたって良いんだ。

 ボクとキミの生きる時間は一緒じゃないんだし。」

「だけど、俺は……。」

「うん、ボクはキミが好きだし、キミは好きって言ってくれた。

 それはとても嬉しい。だけど気持ちだけに流されちゃいけない。」

 

白い手が優しく俺の頭を撫でる。暖かくてフワフワした毛が心地いい。

 

「キミの事は、キミが決めていいんだよ。

 ボクは……今だけは、キミの為に居るんだから。」

 

優しく笑うそいつの顔は少し悲しげで、俺は涙があふれてきた。

その様子を見て、優しく抱き寄せられる。

そのまま胸元に埋まっていると、ちょっとだけ顔を上げさせられた。

 

「ホントは、キミをカミサマの世界に連れ去っちゃおうかとかも考えてたんだけど。

 それは止めた。だって、キミの意志じゃないもの。ボクはキミを奪えても、

 キミの気持ちを無視したくはない。だから、ココまで。」

 

そう言って、まっすぐ見つめたまま、優しくキスをする。

そいつを掴んだ俺の手にも力がこもる。

暫くしてから口を離し、独り言のようにそいつは呟く。

 

「『これから』の事も含めて、キミはどうしたいんだい?」

 

蝉が五月蠅いのどかな田園風景と見慣れた田んぼ道。

 

「地元に帰るのも久々だなぁ……。」

 

俺は今でも、あの時の事を覚えている。あの夏の出来事を。

夏祭りの後、親戚の家にも行って資料を探した。

そうしたら偶然にも、あの山の資料を見つける事が出来た。

山を工事する話はすぐに無くなり、あの山の権利もウチの一族のものという話に。

そこからもちょっと大変だった。取り壊されないにしても神主が必要と。

神主探しは俺達で頑張って交渉して隣町に居た神主さんに来て貰える事になり、

俺もこの町の神主になるために進学先を決めたのだった。

 

駅に着いたので、バスに乗る。行先は自分の住んでいた町。

暫く乗っていると見えてくる大きな山と森。

その大きな山の上にある、小さめの神社。

長い階段の先にある真っ赤な鳥居。

 

「急に帰ったら何て言われっかな……怒られるかな?」

 

彼の反応を想像すると、ちょっと顔が綻ぶ。

今でもきっと、彼はソコに居る。俺との約束だから。

 

実家に帰って荷物を置いたら、あの場所へ向かう。

山の上の小さな神社に。少し距離もあるので自転車で。

階段の下まで着くと、自転車を降りた。

 

「さーて、じゃあ行くか。」

「あれ?もう来たの?まだ3年も経ってなくない?」

 

ビクッとした俺は声のした方を向くと、正服を着た大きな狼獣人が出迎えてくれた。

 

「随分と直ぐに気づくんだな。」

「そりゃあ、通り過ぎる電車からキミの匂いがしたら分かるよ。」

 

そしてニィッと大きな牙を見せながら笑う。

あまりにも子供っぽい無邪気な顔に、俺も笑顔になって笑った。

 

「キミがここに来たってことは、もう待たなくていいってことかな?」

「そうだね、一応は。ただ、学校の勉強とかもあるし、一人暮らしもしないとじゃん?

 当分はココに住むってより、通う形になりそうかな。」

「えー。じゃあ、まだ一緒に居られないんじゃん。」

「こればかりは仕方ないだろ。」

 

でっかいむくれた彼を、俺は優しく撫でて微笑む。

 

「ほら、さっき3年なんて直ぐみたいな言い方してたろ?

 だからオマエからしたら直ぐだって、直ぐ。」

「そうかもしれないけどさー……。」

「仕方ない奴だな……。とりあえず、神社まで行くから待って。」

「はぁい。」

 

俺が階段を登るのを見ながら、そいつは神社まで飛んで行く。

 

「俺も神通力使えればなぁ……。」

「何か言った?」

「いや俺も神通力みたいなの使えればなぁと。」

「えへへ、これは無理ー。今度からは、ボクが助けてあげるよ。今後からは、ね。」

「へいへい。」

 

神通力は使えないし、俺が何を出来るかはまだ分からない。

学校を卒業したら、修練と修行が待っているけれど、苦じゃない。

こいつと一緒に居たいから、わざわざ地元の学校に行くことにしたんだ。

神主さんの話によると、修行をする場所もこの山にあるらしくて、

離ればなれにならなくて済むのも、俺からしてみたら嬉しい話だ。

 

「おっし、着いた。神主さんこんにちわ。」

「お、来たんだね。ようこそ、神主の卵。」

「はい、宜しくお願いします。」

「宜しくね。で、今あの子はどこにいるんだい?」

「えっと、神主さんの隣で……、髪の毛整えてます。」

「やっぱり君には見えてるんだねえ。うらやましいなぁ。」

 

そういって神主さんは少し残念そうにしている。

 

「普段から見えてれば、神事も楽なんだけどねぇ。

 あ、別に神事がイヤな訳じゃないよ。

 大狼神様も神事の時だけは、現れてくださるし。

 やっぱり神主をしている以上、ね。」

「ははは……。」

 

少し苦笑いしつつ言われた本人を睨むと、イヤそうにソッポを向いた。

 

「あれ疲れるんだもん! ちょっと言ってやってよ!

 誰にでも見えるようにするのって、すっごく神通力使うんだ、って。

 毎日あんなことしてたら、ボクしんどくて寝込んじゃうよ……。」

 

喜んでた尻尾が、文句言いながら下がってきた。笑いそうになるのを堪える。

 

「それじゃ、拝殿から掃除お願いね。」

「はい。終わったら本殿の大狼像のお清めですか?」

「うん、それでお願い。」

 

そして拝殿の掃除に取り掛かった。それほどは広くないが、普通の家よりかはやっぱり広い。

あまり物を置かないようにしているので、床の掃除は雑巾だけで済みそうだ。

 

「ほらほら、ちゃっちゃと拝殿綺麗にして、ボクの居る本殿に行こ?」

「適当にはできないだろ。待ってろよ。」

「えー、拝殿はそこそこでいいよぉ。本殿こそ、綺麗にしよ?」

「……それオマエが一緒に長く居たいだけだろ。」

「ばれてた。」

 

そんな話をしながら黙々と掃除をしていたら、思ったより早く拝殿の掃除を済ませられた。

 

「終わった。」

「じゃ、ほら、はやくはやく!」

「引っ張るな! 今は見えないんだから俺が変な動きになるだろ!」

「ちぇー。いいじゃんどうせ見えてないんだし。」

「よくはない。神主さんに伝えてくるな。」

 

拝殿の掃除が終わったことを伝え、本殿の方へ向かう。

 

「よーこそ! ボクのおうちへ!」

「はいはい。」

「さー、掃除して!隅から隅まで!」

「……そういいながら横になって邪魔をしているのは誰だ?」

「ほら、ボクも掃除して貰わないとだし?」

「ブラッシングとかだろ? そんなの後だ、後。」

「えー! それがメインでしょ!」

「掃除がメインです。」

 

他の人から見たら俺が独りでぶつくさ言いながら、

たまに訳の分からない方向に服を引っ張られたり、浮いたりしてたと思う。

 

「さーて、終わった。大狼像の手入れも完璧。」

「おつかれさまー。じゃ、後はボクのブラッシングだね!」

「明日でも良いか? というか別にココでやらなくても出来るだろ。

 俺んちとか、来れない距離じゃないんだし。」

「確かに行けるんだけどさー。ココなら神主さんも来ないから、

 二人きり……じゃん?」

 

大きな体で、少し恥ずかしそうに俯いて、呟いていた。

 

「仕方ないな。じゃ、これでどうだ?」

 

座ってこっちを見ている彼に背中を預けるようにして、股の間に座る。

すぐに周りが真っ白になるように、優しく抱きしめられる。

その心地よさを感じながら、上に手を伸ばして、顎を撫でてやる。

少し身震いした後に、頭の上からも白い毛が下りてきて包まれる。

 

「ようやく、一緒に居られるんだね。」

「……そうだな。」

「大好きだよ。」

「俺も、大好きだよ。」

 

=完=

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普段はエンジニア。ゲーム、絵、小説やらを趣味で作ったりしてる人です。
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