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桜花の鬼姫 第二話 第二章:走れ! 駿

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第二章:走れ、駿!

 

 夕暮れの帰り道。小学生の背丈に縮んだ桜花美紗が赤い髪を揺らしながら走ってきた。

「駿さんーお帰りなさい」

「ただいま。美紗さん。呼び出して、すみません」

 駿は、美紗の目線に合わせて、片膝をついて話しかけた。

「いえ。それよりも。また妖怪が出たのですね?」

 美紗は真剣な顔つきで聞き返してきた。

「うん。スマホのVRに新しいクエストが出ました。「孤独の夢」ですね。沙緒。行こう」

「はい」

 三人はアプリを起動して、VR空間に飛び込んでいった。

 そこは、田園地帯で、田んぼが左右の視界一杯に広がっており、舗装されていない砂利道が真っすぐに続いていた。夕焼け色の水田が、風に揺られて、夕焼色の海を彩っていた。

「これは? いったい?」

「おそらく、ここの過去の風景でしょう。「沢」とかの文字がある地域では、昔は水が流れていたから、その名残で現代も使われていますよね? つまり、この地域の過去の記憶を鮮明に蘇らせることで、敵の力が増すということになります」

「では、ここの妖怪は水系?」

 沙緒の言葉に美紗は頷く。

「恐らく、そう考えていいでしょう」

 沙緒の顏が少し曇り。彼女に見えないように手を握り締める。

「わかりました。それでも、私は駿君を護ります。弱点であったとしても……先に歩いていきますね」

 沙緒は、少し小走りに先頭役を買って出た。

「駿さん、沙緒さんの弱点というのは?」

 小声で美紗が聞いてきた。

「知っているかもしれないけど。沙緒は、吸血鬼だ。吸血鬼の弱点は、十字架や聖なる水。銀の弾丸といった海外妖怪で一番知られているがゆえに、強くもあり。弱くもある。

ただ、沙緒は、純粋な吸血鬼の両親がいたんじゃなく。先祖返りなんだ」

 駿は昔話をした。

「吸血鬼の力は、強大で7歳前後の小さい子供が完全に扱えない。今は吸血鬼のシャオと人間としての沙緒の2人の人格となって、役割を分けている。互いに自立した魂といってもいい。だけど、人間というのは「自分よりも強すぎる存在」に対して恐怖し、ついさっきまで遊んでいた友達であっても排除する。「バケモノ」という名の鋭利な刃を四方八方から投げつけられ、傷ついていく。そうした彼女の最初の失望は、強い人間への不信感と自己の喪失による周囲の人間が作り出す空気へ従属。望んだバケモノになってやろうと自暴自棄になりかけていた。大人も、子供も、奇異の眼で見て、沙緒の精神と魂を傷つけていくのは、許せなかった!」

 駿は、傍(そば)で見てきたからわかるのだ。

 なぜ、周囲の人間は「少しでも違うと攻撃するのか」という無自覚な恐ろしさに自身を見ることができないことへの怒り。

そして、何よりも。何もできなかったことの自分への怒りが強かった。

「もしも、僕に力があれば、と何度も思った。だけど、できたのは、雨の中で泣き叫んでいた沙緒の傍にいたことだった。どんなに、悪態をつかれても、顔に消えない傷がついたとしても、「傍にいると僕が決めた」ことだった。僕の左目の近くに傷跡があるでしょ?

その時にできたのがこれなんだ」

 駿の左目の近くに斜めに、何かで擦切った傷跡が残っていた。

 それは、小さな消えない傷であると同時に、あの日に誓った小さな。ほんの小さな勇気を忘れないための傷跡だった。

「だから、友達だから、困ったとき、泣いている時に傍にいると僕は約束したんだ」

 美紗は優しく目を細めて、駿の言葉を聞きいれた。

 その小さな勇気とやさしさは、多くの人が要らないと捨て去るものだろう。

「駿さんは、その言葉と行動で、2人の命を救いました。それは、誰もできない偉業です。

 人は50年も長い時間を生きるのに容易になっていきました。しかし、誰かの言葉で生きる勇気と希望。何よりも、自分が幸せになってもいいと思えることができるのですよ。

そのことをできる人間は、多くはいません」

 美紗は、戦場で幾人もの命が消えるのを見てきた。

 戦うためには、魂に響く言葉がいる。

 それも、身体から出る言葉。そのことが重要なのだと、彼女自身よく知っていた。

「そして、今の時代。情報機器により、人とのつながりが多様になりましたが。

 人を動かすのは、誰かの魂が宿った言葉。そして、ぬくもり。少し、伏せておりましたが、沙緒さんを抱きしめていたのですよね?」

「ええ、とその―・・・・・・若気の至りで、今思い出しても恥ずかしいです。はい」

 駿は目を左右に泳がせて、諦めて、告白した。

「小さい頃なら、気にするまでもないでしょう? でも、これでわかりました。彼女が必死になって、駿さんを護ろうとしたことの強い意志と信頼。それが、沙緒さんの軸なのですね」

 美紗は視線を沙緒に移すと。彼女の姿が消えていた。

「沙緒!?」

 駿は、消えた沙緒の姿を探す。しかし、視界にはなかった。

「駿さん。簡単に説明します。私の力は、沙緒さん。駿さんのアクセサリーになっているものが揃わないと完全に力を発揮することはできません。ですが、武器だけなら、駿さんのスマホから、取り出すことができます。私の三つの刀は、アクセサリーになっています。ですので、沙緒さんを先に探し出してください。彼女を守れるのは、あなただけすから」

 美紗は、優しく微笑んで。駿の背中をそっと押した。

「美紗さん!」

「いきなさい! あなたは、彼女にとって最高の剣士なんです!」

 駿は、頷いて、走り出した。

「さて、出て来なさい。この気は、「土蜘蛛」ですね? 今回はあなた一人だけじゃないでしょう?」

「ククッ 幼女の姿にあっても、その気高さは変わらんな。鬼姫―鈴鹿御前」

 大型トラックの大きさほどの蜘蛛が現れ。ぎょろりと複数の眼を輝かせて美紗を見る。

「ええ。ですが、なぜ。沙緒さんを先に捕らえたのでしょうか? 冥途の六文銭の足しにしますので、よろしければ、教えてくれませんか?」

「いいだろう。人間は、異質なモノを迫害する本能は知っているな? 我ら妖怪に共通するのは、「人が恐れをなす存在」となったときのもの。なら、迫害されたものは「孤独になる」

では、その孤独の記憶を捨てられるだろうか。捨てたと思っていも、小さき頃に受けた傷は、消えはしない。何故なら、人の根底の核―霊核に刻まれるのだ」

 人は、人生の中で衝撃的な出来事を体験することにより。

 良くも悪くも「己の根底」となる礎にする。

 たとえば―小さい頃に祖父母の死を直に覚えている人は、生死をぼんやりと理解し。

 自分以外の命を大事にするだろう。

 例えば、家庭内で暴力することが「会話の取り方の手段」と教わったのなら、それが「当たり前」と体が覚えるだろう。

 そう、小さい頃に受けた環境という名の凶刃(きょうじん)が、小さい体を深く切り裂き。魂までも傷つけてしまうのだ。だが、その傷を癒す術を現代社会では誰も知らない。

だから、その傷を放置し、暴れ出したものを「異常」と片づけるのだ。

「魂の奥底に届いた傷跡をかきむしり、暴れさせる。人への―いえ。「人間」への憎悪を爆発させ、そちら側に堕ちるように、筋書きですか。なるほど」

 紅いまつ毛を伏せる。

 空に灰色の雲が包み込み。銀糸の雨が流れ落ちる。

「ですが、その哀しみを真っすぐに受け止める人がいるのなら―彼女はあなた達の予想を遥かに超える高みにいける。そう―かつて、荒れ果てた鬼姫となった私のように」

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべ。美紗が大地を蹴る。懐から、短刀を取り出して逆手に構えて攻撃する。

「皐月の舞(さつきのまい)!」

 腰を低くし、瞬時に。土蜘蛛の間合いを殺し。一太刀を入れる。それと同時に、袖口から櫛を取り出して、指先で櫛の歯を握りつぶしたのを土蜘蛛に振りかける。

「ちっ、小娘の姿であっても、その力は健在。なら、一度。仕切り直す」

 土蜘蛛は地中に潜り、撤退する。

 美紗は、フッと笑みを浮かべる。

「さあ。案内してもらいますよ? 沙緒さんがいる所まで」

 美紗は櫛に、己の気を混じり合わせておき。土蜘蛛が撤退した時に、逆探知できるように

潰した櫛の歯を振りかけておいたのだ。

 

 駿は走る。たった独りの少女を護るために。

「待ってろ! 今、助けに行くから!」

 腕輪がキインと共鳴し。沙緒がいる場所へと導いていく。

 少年は、走る。あの日誓った約束の為に。

 雨の中を、駆けていく。

 

 

  • 公開日時:2018/01/13 10:17
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